認知症とは?

1.「認知症」ってどんな病気?

記憶や判断力の障害により、生活に支障をきたす状態

「認知症」とは老いにともなう病気の一つです。さまざまな原因で脳の細胞が死ぬ、または働きが悪くなることによって、記憶・判断力の障害などが起こり、意識障害はないものの社会生活や対人関係に支障が出ている状態(およそ6か月以上継続)をいいます。

 

我が国では高齢化の進展とともに、認知症の人数も増加しています。65歳以上の高齢者では平成24年度の時点で、7人に1人程度とされています。なお、認知症の前段階と考えられているMCI(※1)の人も加えると4人に1人の割合となりますが、MCIの方がすべて認知症になるわけではありません(下図参照)。また、年齢を重ねるほど発症する可能性が高まり、今後も認知症の人は増え続けると予想されています(※2)。

※1:MCI=Mild Cognitive Impairment
正常と認知症の中間ともいえる状態のことだが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない。MCIの人のうち年間で10~15%が認知症に移行するとされている。

※2:出典『都市部における認知症有病率と認知症の生活機能障害への対応』(平成25年3月・朝田隆)

年をとればだれでも、思い出したいことがすぐに思い出せなかったり、新しいことを覚えるのが困難になったりしますが、「認知症」は、このような「加齢によるもの忘れ」とは違います。

例えば、体験したこと自体を忘れてしまったり、もの忘れの自覚がなかったりする場合は、認知症の可能性があります。

また、認知症の疾患として、代表的なものは次のとおりです。いくつかの認知症の原因として、異常なタンパク質が脳に溜まることや、脳の神経細胞が死ぬことにより発症することが報告されています。● アルツハイマー型認知症
最も多いパターン。記憶障害(もの忘れ)から始まる場合が多く、他の主な症状としては、段取りが立てられない、気候に合った服が選べない、薬の管理ができないなど。● 脳血管性認知症
脳梗塞や脳出血、脳動脈硬化などによって、一部の神経細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、神経細胞が死んだり神経のネットワークが壊れたりする。記憶障害や言語障害などが現れやすく、アルツハイマー型と比べて早いうちから歩行障害も出やすい。● レビー小体型認知症
幻視や筋肉のこわばり(パーキンソン症状)などを伴う。● 前頭側頭型認知症
会話中に突然立ち去る、万引きをする、同じ行為を繰り返すなど性格変化と社交性の欠如が現れやすい。

なお、遺伝によるケースは稀であり、さらに働き盛りの世代でも発症するおそれもあることから、認知症は誰にでも起こりうる病気と言えます。

2.どんな症状が出るの?

周囲の現実を正しく認識できなくなります

認知症には、「中核症状」と「行動・心理症状」の二つの症状があります。
中核症状とは、脳の神経細胞が死んでいくことによって直接発生する次のような症状で、周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。

◆中核症状

(1)記憶障害
新しいことを記憶できず、ついさっき聞いたことさえ思い出せなくなります。さらに、病気が進行すれば、以前覚えていたはずの記憶も失われていきます。

(2)見当識(けんとうしき)障害※
まず時間や季節感の感覚が薄れ、その後に迷子になったり遠くに歩いて行こうとしたりするようになります。さらに病気が進行すると、自分の年齢や家族などの生死に関する記憶がなくなります。

※見当識(けんとうしき)・・・現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況を把握すること

(3)理解・判断力の障害
思考スピードが低下して、二つ以上のことが重なると話している相手が誰かわからなくなるなど考え分けることができなくなるほか、些細な変化やいつもと違うできごとで混乱を来す、などの症状が起こりやすくなります。例えば、倹約を心がけながら、必要のない高額商品を購入したり、自動販売機や駅の自動改札・銀行ATMなどの前でまごついたりしてしまうようになります。

(4)実行機能障害
買い物で同じものを購入してしまう、料理を並行して進められないなど、自分で計画を立てられない・予想外の変化にも柔軟に対応できないなど、物事をスムーズに進められなくなります。

(5)感情表現の変化
その場の状況がうまく認識できなくなるため、周りの人が予測しない、思いがけない感情の反応を示すようになります。

◆行動・心理症状

本人がもともと持っている性格や環境、人間関係など様々な要因がからみ合って起こる、うつ状態や妄想といった心理面・行動面の症状です。

[症状例]
(能力の低下を自覚して)元気がなくなり引っ込み思案に
(今まで出来たことが上手く出来なくなって)自信を失い、すべてが面倒に
(自分のしまい忘れから)他人へのもの盗られ妄想
(嫁が家の財産を狙っているといった)オーバーな訴え・行動がちぐはぐになって徘徊

3.予防方法は?発症したら治らない?

日ごろの生活管理と早期診断・治療が大切

認知症の大部分を占めるアルツハイマー型や脳血管性認知症は、生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症など)との関連があるとされています。例えば、野菜・果物・魚介類の豊富な食事を心掛けたり、定期的な運動習慣を身に付けたりと、普段からの生活管理が認知症の予防につながることが分かってきました。

また、症状が軽い段階のうちに認知症であることに気づき、適切な治療が受けられれば、薬で認知症の進行を遅らせたり、場合によっては症状を改善したりすることもできます。早期診断と早期治療によって、高い治療効果が期待できるのです。

認知症の早期診断・早期治療につなげるために、自分自身や家族・同僚、友人など周りの人について「もしかして認知症では」と思われる症状に気づいたら、一人で悩まず専門家などに相談しましょう。

4.家族や周囲はどうすればいいの?

認知症を正しく理解し、さりげなく自然なサポートを

認知症になる可能性は誰にでもあります。私たちと同様、認知症を患った方々の心情も様々です。また、「認知症の本人は自覚がない」という考えも大きな間違いであり、最初に症状に気づき、誰より一番不安になって苦しむのは本人なのです。
認知症の人は理解力が落ちているものの、感情面はとても繊細です。あたたかく見守り適切な援助を受ければ、自分でやれることも増えていくでしょう。認知症という病気を理解して、さりげなく自然で優しいサポートを心がけましょう。

「認知症」の人のために家族が出来る10ヵ条

1.見逃すな「あれ、何かおかしい?」は、大事なサイン。
認知症の始まりは、ちょっとしたもの忘れであることが多いもの。単なる老化現象とまぎらわしく、周囲の人にはわかりにくいものです。あれっ、もしかして?と気づくことができるのは、身近な家族だからこそです。

2.早めに受診を。治る認知症もある。
認知症が疑われたら、まず専門医に受診すること。認知症に似た病気や、早く治療すれば治る認知症もあるのです。また、適切な治療や介護を受けるには、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症などをきちんと診断してもらうのは不可欠です。

3.知は力。認知症の正しい知識を身につけよう。
アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症では、症状の出方や進行、対応が違います。特徴をよく知って、快適に生活できるよう、その後の家族の生活や介護計画づくりに役立てましょう。

4.介護保険など、サービスを積極的に利用しよう。
介護保険など、サービスを利用するのは当然のこと。家族だけで認知症の人を介護することはできません。サービスは「家族の息抜き」だけでなく、本人がプロの介護を受けたり社会に接したりする大事な機会です。

5.サービスの質を見分ける目を持とう。
介護保険サービスは、利用者や家族が選択できるのが利点。質の高いサービスを選択する目が必要です。また、トラブルがあったときは、泣き寝入りせず、冷静に訴える姿勢を持ちましょう。

6.経験者は知恵の宝庫。いつでも気軽に相談を。
介護経験者が培ってきた知識や経験は、社会資源の一つ。一人で抱え込まずに経験者に相談し、共感し合い、情報を交換することが、大きな支えとなります。

7.今できることを知り、それを大切に。
知的機能が低下し、進行していくのが多くの認知症です。しかし、すべてが失われたわけではありません。失われた能力の回復を求めるより、残された能力を大切にしましょう。

8.恥じず、隠さず、ネットワークを広げよう。
認知症の人の実態をオープンにすれば、どこかで理解者、協力者が手をあげてくれるはず。公的な相談機関や私的なつながり、地域社会、インターネットなどのさまざまな情報を上手に使い、介護家族の思いを訴えていきましょう。

9.自分も大切に、介護以外の時間を持とう。
介護者にも自分の生活や生甲斐があるはず、「介護で自分の人生を犠牲にされた」と思わないように自分自身の時間を大切にしてください。介護者の気持ちの安定は、認知症の人にも伝わるのです。

10.往年のその人らしい日々を。
認知症になっても、その人の人生が否定されるわけではありません。やがて来る人生の幕引きも考えながら、その人らしい生活を続けられるよう、家族で話し合いましょう。

出典元:公益社団法人認知症の人と家族の会

5.高齢でなければ発症しない?

働き盛りの世代でも認知症は発症します

認知症は高齢者に多い病気ですが、働き盛りの年代でも発症するケースがあり、65歳未満で発症した場合を「若年性(じゃくねんせい)認知症」といいます。厚生労働省によると(※)、全国における若年性認知症の有病者数は約3万8千人おり、そのうち50歳以上が8割超を占めるとされています。
家計を支える働き盛りの家族が認知症になってしまったら、経済的な負担や心理的ストレスはとても大きいもの。そのため、早期発見・早期治療がより一層重要となります。

※参考:厚生労働省「若年性認知症の実態と対応の基盤整備に関する研究」の調査結果(平成21年)

「新しいことを覚えられない」「もの忘れが多くなった」「仕事や家事の段取りが悪くなった」などの変化が現れ、その症状が続くようであれば若年性認知症のサインである可能性があります。早めに専門医やお近くの「もの忘れ外来」、または、若年性認知症コールセンターまで相談してください。

認知症施策推進大綱

認知症はだれもがなりうるものです。家族や身近な人が認知症になることなどを含め、多くの人にとって身近なものとなっています。これまでも認知症の人の意思が尊重され、できる限り住み慣れた地域のよい環境で自分らしく暮らし続けることができる社会の実現を目指した取組が進められてきました。令和元年6月には関係閣僚会議において新たに「認知症施策推進大綱」がとりまとめられました。本大綱にもとづき、認知症の発症を遅らせ、認知症になっても希望を持って日常生活を過ごせる社会を目指し、認知症の人やその家族の視点を重視しながら「共生」と「予防」を車の両輪とした施策を推進していきます。

【注】

・「共生」とは…認知症の人が、尊厳と希望を持って認知症とともに生きる、また、認知症があってもなくても同じ社会でともに生きる、という意味です。

・「予防」とは…「認知症にならない」という意味ではなく、「認知症になるのを遅らせる」「認知症になっても進行を緩やかにする」という意味です。

● 認知症施策推進大綱の5つの柱

1 普及啓発・本人発信支援
2 予防
3 医療・ケア・介護サービス・介護者への支援
4 認知症バリアフリーの推進・若年性認知症の人への支援・社会参加支援
5 研究開発・産業促進・国際展開

これらの施策は全て認知症の人の視点に立って、認知症の人やその家族の意見をふまえて推進することを基本としています。

● 主な施策の目標【2025(令和7)年まで】

(1)「認知症初期集中支援チーム」
認知症初期集中支援チーム:認知症初期から家庭訪問を行い、症状を把握しながら家族への支援などを行うチーム。(看護師、保健師、作業療法士など)

(目標)
・先進的活動事例集の作成
・訪問実人数 全国で年間40,000件
・医療・介護サービスにつながった者の割合 65%

(2)「認知症疾患医療センター」の設置
認知症疾患医療センター:認知症の速やかな鑑別診断や行動・心理症状(BPSD)と身体合併症に対する急性期医療、専門医療相談、関係機関との連携等を担う、地域の認知症医療の拠点。

(目標)
・全国で500か所、二次医療圏ごとに1カ所以上(2020(令和2)年度末)

(3)「認知症地域支援推進員」の配置
認知症地域支援推進員:発症しても住み慣れた地域で生活できるよう効果的な支援を行う。

(目標)
・先進的活動の横展開 など

(4)「認知症サポーター」の養成と活動支援
認知症サポーター:認知症について正しく理解し、本人やその家族をできる範囲で支援する方々。担っているのは地域住民、金融機関やスーパーマーケットの従業員、小・中・高校の生徒など様々。

(目標)
・企業・職域型の認知症サポーター養成数 400万人
・認知症サポーター養成数1,200万人(2020(令和2)年度末)

(5)「チームオレンジ」の仕組み
チームオレンジ:本人・家族のニーズと認知症サポーターを中心とした支援を繋ぐ仕組み。

(目標)
・すべての市町村で仕組みを整備

(6)「認知症カフェ」などの設置・普及
認知症カフェ:認知症本人やその家族、地域住民、専門職など誰もが和やかに集い、相互に情報を共有しお互いを理解し合う場。地域の介護通所施設や公民館、喫茶店など様々な場所で開催。

(目標)
・すべての市町村に普及(2020(令和2)年度末)

(7)「通いの場」の拡充
通いの場:介護予防に資する住民主体の場。

(目標)
・地域において高齢者が身近に通うことができる「通いの場」の参加率を8%程度に高める

「認知症サポーター」養成講座の様子(上)/地域企業の認知症サポーター
(写真提供:厚生労働省)

認知症カフェの様子(上は日中。下は夜の様子)
(写真提供:厚生労働省)

「認知症施策推進大綱」について詳しくは下記をご覧ください。
厚生労働省「認知症施策推進大綱」